Open SESSAME Workshop 2004 Report |
■ Open Sessame Workshop 2004の概要
SESSAME は 第3回 組込みソフトウェアに関する教育・育成ワークショップ(Open
SESSAME Workshop 2004)を、2004年1月9日(金)に、東京・赤坂の日本規格協会にて開催しました。 基調講演には、経済産業省より 商務情報政策局 情報処理振興課 課長補佐 久米 孝様を、招待講演には、エンジニアリングアウトソーシングの国内最大手である株式会社メイテックよりキャリアサポートセンター副センター長 村上 隆一様をお招きしました。 Open SESSAME Workshop 2004 では、企業の経営者・管理者レベルの方を対象に、国際的競合が高まっている状況において、今後の組込みソフトウェア開発における日本の基本戦略を確認し、今後求められる人材像を明らかにしていきます。 |
OpenSessame Workshop 2004のプログラム |
1. | 基調講演 『日本の組込みソフトウェア政策』 | 久米 孝(経済産業省情報処理振興課) | アンケート集計結果 | ||
2. | SESSAMEの活動報告(1) 〜活動の概要と計画〜 |
西 康晴(電気通信大学) | アンケート集計結果 | ||
3. | SESSAME の活動報告(2) 〜ワーキンググループの活動〜 |
Working Group リーダ (SESSAME) | アンケート集計結果 | ||
4. | 招待講演 『キャリアアップのための人材育成について』 | 村上 隆一 (メイテック キャリアサポートセンター副センター長) |
アンケート集計結果 | ||
5. | SESSAME の活動報告(3) 〜SESSAMEスキル標準の紹介〜 |
渡辺 登(沖通信システム) | アンケート集計結果 | ||
6. | SESSAMEの活動報告(4) 〜ししおどしによるお茶会制御デモンストレーション〜 |
二上 貴夫(東陽テクニカ) 森 孝夫(三栄ハイテックス) 岡田 至子(パナソニックITS) 吉澤 智美(NECエレクトロニクス) |
アンケート集計結果 | ||
7. | 企業内教育の実践について | 山田 大介(リコー) | アンケート集計結果 | ||
8. | パネルディスカッション 『エンジニアにキャリアプランとして何を目指して欲しいか』 |
パネルリーダ: 大原 茂之(東海大学) パネルメンバ: 久米 孝(経済産業省) 村上 隆一(メイテック) 山田 大介(リコー) 坂本直史(ルネサスソリューションズ) 後藤 祥文(デンソー) 渡辺 登(沖通信システム) |
アンケート集計結果 |
プログラム1 基調講演 「日本の組込みソフトウェア政策」 |
■講演者 久米 孝(経済産業省情報処理振興課)
■基調講演の概要
【これまでの組込みソフトウェア関連政策】
これまで、日本では以下のような各種報告書が書かれている。
【ソフト新時代と人材育成】
初めてソフトウェア分野における組込みソフトウェアの人材について触れられたのが、1997年に発表された「ソフト新時代と人材育成」(産業構造審議会)という報告書である。この中で、システムソフト及びマイコン応用システムの開発に関連する人材をデベロプメントエンジニアと定義している。
これに対応した情報処理技術者試験が「マイコン応用システムエンジニア」(1996〜2000年)であり、後の「テクニカルエンジニア(エンベデッドシステム)」(2001年〜)である。
テクニカルエンジニア(エンベデッドシステム)試験は2001年度春よりこれまでに3回実施されており、7,192人が受験、741名が合格している。合格率は10.3%となっている。受験者の内訳は、社会人7,032人、学生160人。さらに受験者を業種別に分けて合格率を見ると、ソフトウェア業が平均より低く、製造業、製造販売業は高い。学生もほぼ平均と同程度の合格率となっている。
ソフトウェア業 | 製造業 | 製造販売業 |
3,015人 | 1,737人 | 921人 |
8.9% | 14.7% | 11.4% |
【ITスキル標準】
各種IT関連サービスの提供に必要とされる能力を明確化・体系化した指標、「ITスキル標準 Version1.0」が2002年12月に策定された。その後、2003年7月にVersion1.1が発表されたが、これは産学におけるITサービスプロフェッショナルの教育・訓練等に有用な「辞書」(共通枠組み)を提供する、という観点から作成されたもの。組込みソフトウェアに関連する職種としては、「ソフトウェア・デベロプメント」「プロジェクト・マネジメント」などがあるが、厳密に組込みソフトウェアに特化したものはない。この内容についてパブリックコメントを募ったところ、「日本の強みであるはずの組込みソフトに関して十分触れられていない」という意見が多く寄せられた。組込みに特化したスキル標準を策定することが今後の課題である、という認識を政府側が持ち始めたときに、SESSAMEの存在を知り、交流を持つようになった。
【ソフトウェアエンジニアリングセンター(SEC)検討タスクフォース】
ソフトウェアをモノづくりという観点で考えた場合、工学的手法を普及していかなければならない。どうやってソフトウェアエンジニアリングを強化していけばよいかを、2003年前半からソフトウェアエンジニアリングセンター(SEC)で検討し始めた。主に以下の3事業について、専門家による詳細検討を実施することになった。
1は、国自身が実際にソフトウェアエンジニアリング手法を用いて先進的なソフトウェア開発を実施。2は、データ・事例の収集・分析などによるソフトウェアの定量的な評価基盤の整備・普及とデータ・事例データベースの構築。3は、組込みソフトウェアを高品質かつ効率的に生産する新たな体系的手法の開発、及び組込みソフトウェアに特化した開発スキル標準の作成を指す。
【組込みソフトウェア開発力強化推進委員会準備会】
SEC検討タスクフォース委員の中には、組込みソフトウェア分野に詳しいメンバーは存在しないことから、別途、組込みソフトウェア分野の専門家による「組込みソフトウェア開発力強化推進委員会準備会」を発足させた。
ハードウェア、ネットワークの機能向上に伴い、組込みソフトウェアの大規模化・複雑化が急速に進む中で、納期を守り、かつ品質を確保するのは非常に困難である。しかし、組込みソフトウェアが我が国製造業の競争力の根幹を支えることを考え合わせると、メイドインジャパンの信頼がソフトウェアのバグによって失墜してしまう危険を孕んでいる。こうした考えのもと、2つの検討部会が設立された。
現在、組込みソフトウェアエンジニアリング部会では、組込みソフトウェアの制約によるもの、ビジネス要因によるものなど、開発時に起こる問題について因果関係の整理・分析を進めている。組込みソフトウェア開発スキル標準検討部会ではスキル標準の必要性などを検討している。
【スキル標準の必要性】
スキル標準の活用案として現在議論されているのは、企業における活用内容である。まず産業内でどのように使われていくかを確立した後、将来的には学校などの教育機関へも取り入れていく方針だ。
企業におけるスキル標準の活用法としては、大きく分けて人材評価への応用と企業活動への応用とが考えられる。前者は、社員の人事評価、個人・組織としてのキャリアパス策定、中途採用時の採用基準など。後者は、受注時、発注時、プロジェクト編成時などを指す。受注時には、営業提案時の技術レベル・特異技術分野・特化技術分野の明示、レベル別の技術者数を明示することで企業の技術力をアピールなどを可能とし、発注時には、発注条件の一部として技術者レベルを設定、レベル別の技術者数によって発注業者の技術力を評価することができる。また、プロジェクト編成時には、技術者のチーム編成、研究・製品開発のメンバー選定などに利用可能だ。
スキル標準に求められるのは、スキルと知識の切り分けを行い、「できる」「できない」を見極める指標として機能すること。全体のマネジメントを含むプロセス管理に関しては、組込みソフトウェアエンジニアリング部会での議論となる。
【組込みソフトウェアスキル標準策定後の課題】
スキル標準が策定されれば、これは知識集約型製造業の競争力のコアを形式知化した世界で初めての成果となる。このスキル標準の展開方法としては、以下のような検討項目がある。
将来的な国際標準化を念頭に置いて、今後も検討していく。
さらに、スキル標準のレビュー体制の整備や、スキル標準によって判明した不足スキルについて指導を行う人材の育成をどうすべきか、また、スキル標準を用いての客観的な評価手法の確立などの検討項目もある。
【組込みソフト人材育成の今後の課題】
知識労働者たる組込みソフト技術者の人材確保はどうやって進めていけばよいのか。今いる人材がスキルアップしていくことももちろんだが、若い人材やより良い人材がより多く組込みソフト業界に入ってくるためには、高い給料、やりがいなどを保証するという手段が考えられる。給料については、組込みソフトの価値を世の中に認識させ、マーケット機能が確立することがまず先決となる。やりがいを満たすための条件としては、ドラッカーの言によると以下のようなものが考えられるという。
これはまさに組込みソフト分野が今後解決していかなくてはならない課題に直結する内容である。
組込みソフト分野の確立を目指して大きな動きのある今年を「組込みソフト元年」として大いに盛り上げていきたい。一般人でも組込みソフトの重要性と「クールさ」がわかるように説明できるようになることを目標としている。その一環として、「組込みソフト」ではなくもっとわかりやすい呼び方はないものか、コーポレート・アイデンティティ的な打ち出しを検討するべきかもしれない。まずは、前述の統計調査が組込みソフト分野確立への第一歩となるだろう。
■キーワード・キーセンテンス
「ソフトウェアという目に見えない価値を可視化していかないといけない」 「情報処理技術者試験」 「テクニカルエンジニア(エンベデッッドシステム)」 「ソフトウェアエンジニアリングセンター(SEC)検討タスクフォース」 「組込みソフトウェア開発力強化推進委員会準備会」 「Made
in Japan の信頼がソフトウェアによって失墜してしまう危険がある」 「スキル標準はできる・できないを見極める指標」 「今や唯一の意味ある競争力要因は、知識労働の生産性である」 「その知識労働の生産性を左右するのが知識労働者である」 「組込ソフト元年」
プログラム2 「SESSAMEの活動報告(1)〜活動の概要と計画〜」 |
■講演者 西 康晴(電気通信大学) SESSAME世話人
■概要
2000年秋に発足したSESSAME(組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会)のこれまでの活動の概要と、2004年の活動予定、各ワーキンググループの活動内容を説明。ボランティアベースで活動を行っている研究会への参加を呼びかける。
■キーワード・キーセンテンス
「オープンプロダクト」 「オープンコミュニティ」 「ベストエフォート」 「ゴマのように栄養豊富な組込みシステムを開発してほしい」 「日本の組込みシステムの発展を願うかけ声、開けゴマ!」 「SESSAMEコンテンツをどんどん使ってほしい」 「多岐に渡る議論を自由に展開できるのがSESSAMEの特徴」
プログラム3A 「SESSAMEの活動報告(A)〜ワーキンググループ1の活動〜」 |
■講演者 今関 剛(豆蔵) ワーキンググループ1リーダー
■概要
SEI.CMU (カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所) にて定義されたソフトウェア開発のアプローチあるプロダクトラインによる開発スタイルの改善を考え、現場開発者の視点による議論の場を提供している。成果・実績としては雑誌,WEBサイト(EEBOF)等のメディアを通して技術情報提供と普及促進を行っている。
今後の活動として中小開発向けソリューションの研究を提示し、日本の組込み開発組織の事情に合わせた形でプロダクトラインの考え方をテーラリングし、ベストプラクティス化することを目指す。
■キーワード・キーセンテンス
「プロダクトライン」 「中小開発向けのソリューションの研究と掲示」 「プロダクトラインの3つの活動
→ ”再利用の対象となるコア資産の開発” ”コア資産の統合による製品の開発” ”コア資産の共有・再利用による経済性の管理”」 「体系的な再利用」 「再利用型開発の実現」
プログラム3B 「SESSAMEの活動報告(B)〜ワーキンググループ2の活動〜」 |
■講演者 山田 大介(リコー) ワーキンググループ2リーダー
■概要
組込み初級者向けの構造化分析手法とオブジェクト指向設計の教科書を作成している。WG2の目的は完結した設計のサンプルを示すことである。一般的な教科書にあるような問題と解答だけでなく、思考の過程を残すことに留意している。最小セット+オプションという構成でベストプラクティスとアンチパターン(定石と格言)を残していきたい。提示したサンプルにしたがって設計を行うことで徐々にスキルをアップすることができることを目指す。
今後の活動予定としてオブジェクト指向設計の小冊子を2004年の2月にリリースする予定。この小冊子を初夏のセミナーに使用する。構造化設計手法、オブジェクト指向設計ともに設計編の教科書作りはWG4で進める。
■キーワード・キーセンテンス
「構造化分析手法」 「オブジェクト指向設計」 「組込みソフト初級者用教科書」 「ベストプラクティスとアンチパターン」 「定石と格言」
プログラム4 招待講演 「キャリアアップのための人材育成について」 |
■講演者 村上 隆一(メイテック キャリアサポートセンター副センター長)
■概要
【メイテックのエンジニアリングアウトソーシング事業について】
派遣業には派遣スタッフを登録しておいて仕事があれば派遣を行う一般派遣事業と、派遣契約の有無にかかわらず社員として雇用し派遣契約が終わっても社員として残る特定技術派遣事業がある。メイテックは後者となる。派遣先の対象の内訳は機械系が4割、電子系が3割、ソフトウェアが2割強である。組込み系のソフトウェアの技術者は約600名ほどいる。社員の平均年齢は30.9歳である。6400名の社員のうち、6000名が技術職で400名が間接部門のスタッフとなる。間接部門の中にも技術出身の者が多数含まれていて自分も技術職の出身である。
機械系技術者 | 電気系技術者 | ソフトウェア系技術者 |
4割 | 3割 | 2割強 |
自動車など | 部品・LSI系など | 組込みソフトウェアの派遣が一般ソフトウェアよりもやや多い |
【技術者のためのキャリアアップサポートシステム】
キャリアアップの最大の目標はプロフェッショナルな技術者として成長し続けていくことである。若い技術者であればより高い技術を目指していく、ある程度のレベルに達した場合は幅の広い技術を習得することができるようにしてきたい。重要なことは、より市場価値の高い仕事をやっていかなければいけないということである。その人が高い技術を持っていても技術が陳腐化してしまえばエンジニアであり続けることができなくなってしまう。市場価値を持ち続ける技術者であることを実現するようなキャリアアップサポートシステムを築いていくことが自分たちの使命であると考えている。
キャリアプランセミナーでは商品の売れ筋動向、どのような製品の開発が多いか、どういう技術要素がトレンドになっているか、どのようなツールを使っているかをレクチャーしている。また、技術者個人個人の現在のポジション、スキルレベルを示しながら5年後、10年後の自分など中長期に渡った目標を専門のスタッフが立てさせている。(上長より自由に意見を述べやすい専門のスタッフが指導している)
メイテックでは1995年から6000人分の業務に関する膨大なデータ(技術者の携わった業種や使用した開発ツール、教育暦など)をデータベース化し、このデータベースをもとにその人にもっとも適した仕事を与えるベストマッチングシステムを構築し実践している。また、自己研鑽を積極的に行う技術者は昇格がしやすいような人事システムも導入している。
キャリアプランセミナー | 専門スタッフが土日を使ってまる二日間セミナー及びカウンセリングを行う。2003年の実績で519名の技術者がこのセミナーに参加した。 | |
資格試験・認証試験 | 公的な資格試験があるものについては合格した場合に報奨金を出したり、電気系など目的の公的な試験がない場合は社内で実務経験2年目くらいのスキルを目標に資格認証試験を作っている。 | |
図書の貸し出し | 電子化したライブラリがあり、ホームページから申し込めば配信されるバーチャルライブラリシステムを導入している。 | |
アドバンス研修 | 2003年の実績は約2000人。講座数28講座 | 全国17箇所で行う集合型の研修 土日に行い、自己研鑽のサポートという位置づけ 手当はつかない(交通費は一部支給) |
準アドバンス・グループ研修 | 2003年の実績は約2000人 | |
特定研修 | 派遣と派遣の間の時間に行う研修 | 会社主導型の研修 身につけてもらわなければならないスキル |
ヒューマン研修 | 顧客満足度、コミュニケーションスキル、プレゼンテーションスキルなどの向上 | |
プロジェクトマネージメント研修 | 一定の基準を満たしたキーマンと位置づけた技術者 | |
カスタマイズ研修 | 顧客からの要望でオーダーメイドで作る技術研修 |
【キャリアサポートサービスの全体像】
アドバンス研修、準アドバンス研修、グループ研修は集合型の研修で土日を使って行っている。自己研鑽という位置づけで手弁当。手当はなくても年間4000人程度の受講実績がある。キャリアサポートセンターは昔は教育センターと呼ばれていた。しかし教育を強制しても効果がなかなか上がらないという事実があった。そこで教育効果を上げるためには本人のやる気があり、「是非この技術を覚えたい」というモチベーションを持って自分から能動的に技術を習得しようとするエンジニアをサポートするという考え方に変えた。
キャリアアップをサポートするための教育コースや講師、場所、機材などを積極的に投資するようにし、会社がこのような資源に投資するのに対して、技術者には土日に研修に参加するということで「時間」を投資してもらっている。このようにしてキャリアサポートセンターの体制ができ、このシステムを使う使わないは技術者の自由であるということにした。一方で会社として身につけてもらわなければいけないという観点から、業務の一環として特定研修、ヒューマン研修、プロジェクトマネージメント研修なども行っている。
【Learning
Management
System】
LMS(ラーニング・マネージメント・システム)は2003年の10月から導入している。LMSはキャリアアップ活動を活性化する目的で個人のポータルサイトという形で構築されている。個人でP(Plan)→D(Do)→C(Check)→A(Action)のサイクルを回しながら螺旋階段を上っていけるようなシステムとしたいと考えている。技術者はLMSを使って、セミナーの案内を見たり申し込んだりすることが可能。
5年10年の中長期的なプランとは別に、顧客満足度シートを使って、本人と自分の上司、派遣先の上司の3者で1年単位の目標を立て、研修計画等も書き込むようにしている。現状では遠隔研修、e−ラーンニング研修をLMS上で受講することが可能であり、グループ研修についてもLMS上で申し込みができるようにしていくつもりである。LMSで研修の申し込みがされると受講が滞ってるようなときはフォローのメールが送られるようなシステムになっている。アドバンス研修と準アドバンス研修は2日間と短期間であり、その期間だけでは効果がなかなか上がらないので、次に向けたアクションを促すようなフォローのメールが飛ぶ。 また、LMSを使って教育歴が記録される。こららのデータを使いながらベストマッチングシステムを使ってそのエンジニアに相応しい仕事を検索する。
【eラーンニング導入のねらい】
集合型の演習は時間と場所の制約を受ける。いつでどこでも聞けるeラーンニングを行っている。講師不足の解消のために有効。通信教育や自習について報奨金を出すという制度もサポートしてきた。しかし、技術者の個人レベルで進めていくと、会社が戦略的に身につけて欲しいとい思う技術を教育できない、また、技術者個人個人が持っているノウハウ、知識を共有できないといった問題があった。そこで、会社が技術者に受けて欲しいと考えるeラーンニングコンテンツを提供していきたいと考えている。
【遠隔研修システム】
全国に技術者が散在しているので、インターネットを使い自宅からでもアクセスしたい。ナローバンドでも使えるようにしたい。インターネットを使い双方向でアクセスが可能な研修システムとなっており、講師がどこにいても研修を行うことができ講師不足の解消に貢献している。また、アドバンス研修は入門編になりがちなので、より実践型の特定技術研修を行っていきたい。また、現場現場で行っているのがグループ研修であり、地域にいる高い技術を持ったエンジニアに講師になってもらい研修を行っている。遠隔研修はこのような特定の技術者が持つ技術をより多くのエンジニアに伝承する意味でも実施している。キーマンが次ぎのキーマンを育てるための講師養成講座としての意味もある。
【ISO9001キャリアサポート】
派遣の品質という意味で、メイテックはISO9001を取得しており、クライアントのニーズにどう答えていくかという部分を品質保証としてとらえて活動している。クライアントのニーズと実績を分析し、顧客満足及び技術者の満足度が最大になるような教育企画を「設計」している。教育企画に対する結果・効果をISO9001の品質保証の材料としている。アウトプットに対するトレーサビリティを確立するために、教育の効果を確認するための追跡調査や顧客へのヒアリングなども行っている。
【最近の技術分野動向を技術者に示す】
会社としては技術動向の流れによっては技術者に自分の持っている技術分野を転換して欲しいときがある。例えばかつては制御系技術というとシーケンサの技術がメジャーだったが現在はそうではない。シーケンサに関する技術しか持っていない技術者には、早めに技術動向をキャッチして現実を示し必要な技術を習得してもらうようにしたい。 会社が考える技術者像を技術者に強制すると「また会社があんなことを言っているよ」ということになってしまうので、これをエンジニアに間接的・客観的に示すことを目指している。 現実を示して自分の得意分野の動向を把握してもらう。「こういう技術が必要になるから勉強しなさい」では技術者はついてこない。現実の世界を認識してもらい「その畑で生きていこう。そうすれば、活躍出来る」と考える技術者をサポートしていくためにこのような情報を公開している。
【新人研修について】
新人研修 2003年は受講者数が約270名、組込みソフトウェア技術者は約50名。新人研修では技術研修よりもヒューマン系の研修に力を入れている。入社するとまずはヒューマン系の研修を一ヶ月みっちり教える。技術者に求められる品質は、技術力だけでなく人間性や信頼性が重要。新人は技術力よりむしろ人間性・信頼性をきちんと教育する。社会人としてのマナー、仕事に対する考え方、設計を行う上で顧客満足度を獲得するにはどうしたらよいのかを教える。”成果主義”を設計のアウトプットだけで判断することと誤解するケースがあるが、設計をするための過程例えば報告・連絡・相談などを行いながら仕事を全うしなければ信頼を得ることはできない。 このようなことを4月に集中的に教育している。
新人研修のラインナップは技術研修、論文、プレゼンテーション、C言語基礎、自立型ロボットソフト、GP-IB
Visual Basic
、温度計マイコンソフト、電光表示板制御ソフト研修などがある。迷路をぬけることを目的とする自律型ロボットの研修ではBIOS・モニターはあらかじめ用意されており、アルゴリズムを考える実習を重視している。(標準で40日くらいかかる) 次のステップとして温度計のマイコンソフトの実習(Z80,7セグLED)でデバイスドライバを作らせる。(10日間) 次に電光掲示板を制御するファームウェアを制御させる。ここで初めてインサーキットエミュレータを使わせる。割り込みやパソコンとの通信インターフェースを経験させる。(40日) ここまでを全員が受講できるわけではないが教育して企業に送り出すようにしている。
【アドバンス研修】
2日間、実習を重視、見てさわって理解することに重点を置いている。2日間の実習なので詰め込みでは身に付かない。「だいたい分かった。これはおもしろい」「じゃあ継続して勉強しようかなあ」と感じさせることが大事である。 C言語の実習は、ハードウェア技術者がC言語の書き方を習得してもらうことも考え、持ち帰りが可能なボーランドのフリーのソフトウェアを使っている。DSPの研修ではデジタルフィルタを作成する。入力と出力をオシロスコープで確認させている。温度計のマイコンソフト、ネットワーク(TCP/IP)の基礎知識の研修なども用意している。
【特定技術研修】
年間受講者数 約270名、実践型の研修。電光掲示板の研修等を切り出して行っている。ここではプロジェクトマネージメントも経験させる。受講生達がプロジェクトを進め、講師はレビューで徹底的にたたくという立場を取る。研修所に泊まり込むタイプの研修。
【eラーンニング講座】
年間受講者数 約397名、組込みソフト系 34名。見て分かる聞いて分かる教材を目指す。最後は触って実感、実際に試すことが必要。設計の上流工程をマルチメディアを使って教育したいと考えている。H8を使ったデジタル音源装置等を使っている。
【最後に】
社員には雇用され続ける能力を持つように目標づけている。会社は技術者を雇用し続ける能力を目標としている。活躍し続けることができる場を用意し続け会社と社員がともに存続し続けたい。
■キーワード・キーセンテンス
「データベースをもとにその人にもっとも適した仕事を与えるベストマッチングシステム」 「キャリアサポートシステムを使う使わないは技術者の自由」
「LMS(ラーンニング・マネージメント・システム)」 「クライアントのニーズと実績を分析し、顧客満足及び技術者の満足度が最大になるような教育企画を設計する」
「現実の世界を認識してもらいその畑で生きていこうと考える技術者をサポートする」
「詰め込み研修では身に付かない、”だいたい分かった”、”これはおもしろい”、”じゃあ継続して勉強しようかなあ”と感じさせることが大事」
「社員は雇用され続ける能力を持つ」 「会社は技術者を雇用し続ける能力を持つ」
プログラム5 「SESSAMEの活動報告(3)〜SESSAMEスキル標準の紹介〜」 |
■講演者 渡辺 登(沖通信システム) ワーキンググループ5リーダー
■概要
SESSAMEは組込みソフトウェアエンジニアの「個人のスキルアップ」「チームビルディング」「会社−社員の意識合わせ」「会社−会社間の意識合わせ」等の目的のためにスキル標準を作成している。SESSAMEがまとめているスキル標準は、経済産業省が策定中のITスキル標準の組込み分野のたたき台となっている。
個人のスキルアップ | ・得意分野、不得意分野の把握によるスキルアッププラン立案 ・初級エンジニアに対する将来的なイメージ、目標,課題の提供 |
チームビルディング | ・得意分野認識によるチームメンバ選定や評価 |
会社-社員の意識合わせ | ・キャリアプランの整合、診断 ・評価基準 |
会社-会社の意識合わせ | ・協力会社(アウトソース)選定。各要員毎や全体的傾向の把握 ・評価基準 |
現在SESSAMEで取り組んでいるスキル標準について、以下の説明を行った。
■キャリア、スキルに関する動向 我々エンジニアを取り巻く環境
これらの問題を解決し、組込みの技術者、管理者が自立していくにはどうしたらいいのかということを考えて、SESSAMEはスキル標準を作成している
■既存のスキル標準、知識体系
既存のスキル標準、知識体系には以下のようなものがある。SESSAEMのスキル標準はこれらを参考にし、組込みソフトウェアエンジニアにフォーカスしてまとめている。
■ SESSAMEスキル標準
このような形でアクティビティを定義し、それぞれに対して細かく定義している。
■ドメインスキル
業務ごとのドメイン別スキル項目について、SESSAMEスキル標準には含まれていないが、実際開発するにあたって必要な知識であり、実際にはドメイン別のスキル項目を知らないと仕事にならない。ドメインスキルについては現在調査中である。
■キャリアパス
スキル標準とともに重要なのがエンジニアのキャリアパスである。
組込みソフトウェアエンジニアの基本的なキャリアパスとしては、初級→中級→スペシャリストとして考えているが、ルートはいくつもある。
■スキル標準の利用方法
■おわりに
本活動はSESSAMEのWG5で活動している。本日の資料は、大項目までしかないが、SESSAMEの中ではさらに深い議論を行っている。興味のある人はぜひ、SESSAMEに参加され、WG5で活動していただきたい。
■キーワード・キーセンテンス
「SESSAMEスキル標準」 「チームビルディング」 「キャリアパス」 「 ビジネスおよびヒューマンスキル」 「スキルの物差し」 「ドメインスキル」
プログラム6 「SESSAMEの活動報告(4)〜ししおどしによるお茶会制御デモンストレーション〜」 |
■講演者
お茶会に招待された客人(SESSAME主催者 東京大学教授 飯塚、経済産業省 久米氏)、開護摩庵の亭主(NECエレクトロニクス
吉澤)、内弟子(NECエレクトロニクス 中村)、お点前(パナソニックIT 岡田)、黒子(三栄ハイテックス
森)、ナレーション(東京大学 横井)、演出・調整(東陽テクニカ 二上)
■概要
都心で開くお茶会に風情を添えるために、茶会の亭主が電子制御の鹿威しを用意するというストーリーのSESSAME教材デモンストレーション。
最初に手動でやかんで水を注ぎ鹿威しを動かすものの、自動制御にしたいと考えた黒子がSESSAMEの組込みソフトウェアエンジニアの教育教材である鹿威しキットを使って電子制御で鹿威しに水を供給する様子を演じた。電子制御の鹿威しは、リモコンで動作を開始・停止を行うことができ、水はねを最小限に抑えるために鹿威しがコーンと鳴ると水の供給を一時止める制御を行う。
中間のプレゼンテーションでは、教材としての鹿威しは、手軽で楽しい教材でありながら、組込みにおける必要な技術全体をカバーするようになっていること、その必要性を述べた上で、SESSAMEで提供している他の教材などもTOPPERSとの関係も含めて紹介した。
台本・プレゼンテーションの詳細はこちら
プログラム7 「企業内教育の実践について」 |
■講演者 山田 大介(リコー)
■概要
組込みはよく言われるのだが、高多機能化、短納期化になっている。とにかく、進化が必要である。進化している環境なので、進化していない限り、自分の持っているスキルレベルは止まっていくどころか落ちていく。特にベテランエンジニアの人は
How To系のやり方を教えるものが多い。研修を受けてみてもわかったつもりになるがいざ何をして良いかわからない。また、本による自己学習もできるが、どの本を選んだらよいかわからない。
特にベテランエンジニアは時間に追われている。忙しい忙しい、という日常を送っていくと簡単に1ヶ月、1年過ぎてしまう。振り返ってみるとなにも残っていないというエンジニアが意外と多いのではないか。それとは対象的に、新人のエンジニアの方はOJTが破綻しかかっている。組込みエンジニアは体育会系のノリが若干あって、技を盗めというか、背中を見て覚えろとか、こういった教育をされてしまうと、過去のことを知ってしまうということになるので、逆に進化できなくなってしまう。忙しい、ということが先輩エンジニアは日常になっていて、忙しいんだから自分で勉強しろ、といった世界になってしまっているのではないかと危惧している。
そこで、4つのチャレンジ、開発方法自体と研修のありかたを2つずつ変えていこうとしている。それを紹介する。
4つのチャレンジ
■ソースコードからモデルという開発方法について
ソフトウェアエンジニアは20年前、アセンブラニーモニックの時代30歳定年説とか35歳定年説というのがあった。それから高級言語、いわゆるソースコードの時代になってある程度寿命が伸びて、30歳定年とは言われなくなってきたが、やはり40歳を超えてソースコードの中身を理解したりするのはなかなか厳しいし、作った人にしかわからないソースコードが多い。たとえばこのプレゼンテーションは事前にレビュしているので担当者がかわってもなんとかなる。ところが組込みはソースコードでやっているので担当者がいないとわからない。そういった世界だといつまでたっても職人、体育会系、風邪で熱があっても出てきなさい、ということから抜けられない。
そこで設計の全体がわかるモデルじゃないと難しいということになる。最近オブジェクト指向とかUMLのモデルとか、構造化の構造部というのでもよいが、なんらかのモデル化が必要とよく言われる。ソースコードだとどちらかというと局所的な視点となる。つまり、その場をどうやって動かすかというハードの視点となる。モデルだと何を実現したいのか、何をするのかという指向でレビューできる。これからは、そういった視点に変わらなければいけない。ところがエンジニアは内向きの視点が多い。それをどうやって作るのかを追求するのが好きという指向の人が多い。それで何をするのか。究極的にはビジネスで何をしたいのか、という視点に持っていくのが難しい。
ひとつの解決策は手続き指向からオブジェクト指向・UMLで作りましょうということ。作り方の一番大きな違いはボトムアップとブレークダウンということ。ソースコードだと動くところから徐々に組み込まれて大きくなっていく。それに対してオブジェクト指向は全体をモデル化してそれから細分化していく。ここが大きく異なる。
問題点は抽象化、概念化が訓練されていないということ。エンジニアは答えを求めたがるので抽象的なこと概念的なことを考える訓練がされていない。そういったところを変えていく必要がある。
あとは指導型から支援型へ。これは研修の仕組み。普通のメーカは大量生産、作る側の視点でのプロダクトアウト型から顧客視点でのものづくりに変わっている。研修も同じでブロードキャストする、講師が一方的にしゃべってみんなが受身になるような教育では対応できない。受ける側の視点に立って教えていかないといけない。個人に合わせた教育、実践的な教育、教える/質問する、から相談するというように受講者の姿勢が変わって行く研修を目指す必要がある。
もうひとつの問題はOJT。バブル期の先輩がみんなできないわけではないが、みんなレベルがばらばら。そういった人たちが教える側に立っても、OJTを何回かまわすということができない。OJTができる先輩講師を育てる必要がある。
また、組込みのエンジニアは意外と社外に出て行かない。ずっと自分の会社のビルに閉じこもっているので社内でしか通用しない用語なのか、社外で通用する用語なのかわからない。そういった意味で私たちは一般的な専門家による教育をしている。私たちの会社では複写機を知らない人たちが指導役になる。その人たちがわからない言葉はリコー独自の用語であるということに気づくことが重要。また、SESSAMEなど、他社の人たちと交流できるような場があるだけでずいぶん違う。
■リコーの教育コース
モデルの実践コースと新人向けのモデリングの実践コース。2つとも、特徴は実践コースという言葉がついているように自動車の教習所のようなもの。教科書はあってもリーダは手を動かせない。そういった人に対して、こうやって手を動かせばいいんだよ、こうやってモデル化すればいいんだよ、といった実践の場、手取り足取りの教育、訓練というものである。これらを紹介する。
研修はまずレベルを定量化しなければならない。UMLでも良いが、モデルのレベルは客観的に初級中級上級で評価することができる。この人の作るモデルはこのレベルだからあなたは初級ですね、という形で客観的に評価できる。モデリングエンジニアの初級・中級・上級が決まってくる。メーカ系だとこれをそのまま人事制度に結びつけるのは至難の業である。メカのエンジニアはどうするんだとか、販売はどうするんだとか足並みをそろえられないので人事制度にはなかなか反映できない。プロジェクトマネージメントではこのチームはこういう人が何人いる、とかプロジェクトマネージャーに利用できる。
そういったレベルでベテランエンジニアは1級レベル。最初に車をちょっとだけ運転できて路上は実際のデータでやる、それまでは教習、コンサルタントをつけて実践するということになる。まず路上に出るくらいまでを行えるようにする。
新人向けは、情報系を希望してきた人でも、ソフトウェア工学を大学時代にやっている人はあまりいない。「C言語をやったことあります、でもあまりわかりません」という人が多い。大学卒を即戦力として使うというのは双方にとってメリットがない。企業にとってはいいものが作れない。本人にとっても理論なしで実践の場に行ってしまうことになる。我々の会社では10ヶ月、約1年間手取り足取り、実践の研修を行っている。
<支援>
研修生の方が中心なので教えるということはしない。彼らの問題に対して支援する、ディスカッションして気付きを導き出して支援する、そういった研修にしている。4人に1人のアドバイザがついて実地のレビューとかプログラミングやモデリングを見て指導、支援する、ということを中心にしている。といっても理論をちゃんと覚えないといけない。結局理論と実践のバランスをうまく使いこなせるかどうかが実際に使えるエンジニア、高いスキルのエンジニアになる。理論だけ知っていてもやはり実践ができなければ価値が生まれない。どんどん入れても理論がなければ品質が落ちていく。バランスが大切だと思う。
今までの2つがベテランエンジニアの5日間コース。4人チームで5日間、モデリングを手伝いしながら指導者がつく。それで路上に出て行く。つまり、現場に帰って体験することになる。新人のモデリング研修はいろいろな仕組みでやっている。モデリングチーム、ナレッジの移転チームこれはメンターとレビューという形でやっている。キーワードとしてレビューをしながらコミュニケーションするということです。レビューは4人で自分たちの作った設計についてディスカッションしているがこれが非常にいい教育の場になっている。いい物を作るというものもあるし、ヒューマンスキル、ディスカッションできるのでエンジニアの訓練になっている。ディスカッションとかコミュニケーションというのは訓練しないとできない。
メンターさんというのは指導する人。4人に1人がついて、海外の教育の専門家をお願いしている。社内についてはドメインエキスパート。我々のコピーなどの装置を作った経験のある人。この3人が連携して教えることになっている。今までのOJTですと、ドメインの言葉しか教えられない。こういった形でバランスよく、一般的なことからドメインのことから、コミュニケーションまで教えることができる。
特徴的なことは実践中心で、自分たちが作るものを題材としている。鹿威しで作っても、自分たちの事業ドメインとのギャップがあるのでわかりにくい。あとはヒューマンスキルの教育の中で気づき、支援、ディスカッションなどをメンタリングしながら指導している。ベーススキルとあるが、こちらの方が重要で、問題解決型になっているかどうか、文章力が重要である。文章を書けないと他の人に伝えられない。論理思考、文章が非常に重要になっている。ところが文章を書け、問題解決型で考えようというカリキュラムがあったとしても、なかなか現場で生かせない。実はこれも題材がUMLになっており、UMLを題材として論理思考、問題解決の具体的な取り組みをしている。非常に現場に近い技術なので、そのまま現場で活用できることがポイント。もうひとつはディスカッションがエンジニアは苦手なので、意識的に司会者と書記などの役割を明確にして、会議やレビューのファシリテーション技術を学んでいる。エンジニアが設計者同士のピアレビューを行うと、どうしても抜け漏れの指摘になりがちなので、全体を鳥瞰して見られる設計技術をつけることが必要。
また、議論の勝ち負けを無意識にでもしてしまうことが多い。そういったことではうまいレビューはできない。相乗効果を出せるようなコミュニケーションは日本人は得意なはずなので、そこをエンジニアが思い出してくれればいいレビューになる。
こういった試作で、いままでのエンジニアの技術詰め込み型の研修とは違う形で、そこらじゅうでディスカッションが起きる研修を行っている。その際に陥りがちな学習障害についてベテランと新人の典型的な例を紹介する。
エンジニアは昔のやり方、自分のやり方でやってしまうのでそれをいったん捨てる技術、アンラーン技術、今までの自分の技術をあえて忘れて新しい技術に取り組むことが必要。新しい技術を取り込むときは習得カーブが示しているように、一旦生産性が落ちる。苦しいところを乗り越えると次のステップに行ける、これが変化に追従するための習得カーブである。エンジニアは苦しいときに自分のやり方に戻ってしまう、UMLでオブジェクト指向型でモデリングしているのに今までの自分の手続き型、処理の流れで考えてしまう。UMLでモデルが書けているからといって、オブジェクト指向で再利用性の高い設計になっているかというと全然そうなっていない。今までの考えをUMLでモデル化しただけで、C言語で構造文使ったほうが良いんじゃないか、このレベルで止まっている人が多い。過去の技術を一旦忘れるということはいわば新人さんと同じ土俵に立ちましょう、ということなので非常に恐怖なのだが、それを続けていく、アンラーンし続けないといけない世界。ところが変化したくない、サラリーマン的な人が意外と多く、こういう人は何らかのプレッシャーがあるのでそれを排除してあげなければいけない。もうひとつは能天気というか、周りが変化しているのに全然気がつかない、いわゆるゆでがえるのひと。ぬるいお湯に入れて徐々にあったかくなっていくのに死ぬまでわからない、こういった人も意外に多い。感度が必要。
新人エンジニアは自分で動くものを作ったことがない、というところでいきなり理論から来てもわからない。実際に作った物が動くという実感が必要。そういう意味で鹿威しとか、各社レゴ等を使って動くものを題材にしているところが多いが、動かしてみるところまでいくことが大切。そういった教材が本当にほしいな、と思う。あとは、受験世代なのでどうしても答えがあると思ってしまう。講義等でディスカッションなどしていても、結局解は何なんですか、と聞いてくる人がいる。そういう人にはトレードオフ、最適解を選んでいくことの重要性を教えることが必要。解を求める人はなかなか伸びない。あと、表面だけを取り繕ってしまう、というのがあるが、先ほどの図でドメインエキスパートが研修に加わっているが、これは所属も職場の先輩になる。先輩から言われるとすべて鵜呑みにしてしまうことがあり、それは客観的に見ると振り回されていることがある。それが正しいのか、先輩の言っていることを聞くべきなのか、置いておいて良いのか判断できないといけない。あとは受身、研修とか教育という言葉がもう受身だが、積極的、主体的に教育を受ける、自分を伸ばすというところに取り組まないとなかなか伸びない。
典型的な壁だが、構造化からUMLに変化するだけで非常に大変で難しい。教える側もパワーがいるし、教わる側も熱心にやっていかないと変われない、そういうことを感じている。では研修を実行していく部署はどういったことを考えてエンジニアを育てていくか、これからのエンジニア像は何か、指導者側がどういうことを注意するのか、ということについて紹介する。これを見るとわかるが技術的な要素はひとつもない。OSを知るべきとか、そういったことは覚えれば使える。今後はコミュニケーションスキルを高めること、自分の意見を伝えることも大切だが、他人の言っていることを理解することも大切。あとファシリテーションも必要。国語力と書いてあるが、文章や図解がないと、その人任せになってしまい、属人性が生まれ、その人がいないとできなくなってしまう。チーム開発でやるためにはこういった技術も必要。思考力は当たり前だが、意外に考えられていない。答えがない世界で考えられるというのも難しい。あと、トップダウン思考、局所局所でなく全体最適な視点で俯瞰することが必要。アンラーン、変化に対応できている人は前のものをアンラーンし、新しいものを学ぶ、そういうパワーがある人、逆に言うと組込みエンジニアはそういった(変化のない)ところに置いていかれるとなかなか追いつかないかもしれない、そういった世界にいることが幸せなのか不幸なのかわからないが、こういった時代なので、アンラーンして新しいものにチャレンジすることが大切。継続的に学習する習慣がない。よくできる人は本をよく読んでいる。本を読むことが重要。
逆にこういった人は伸びない。
最後、まとめになるが、技術型エンジニアを育てるためには実践から学ぶことが大切。鹿威しキットは一家に一台あったほうが良いかもしれない。実践から学んで、次、鹿威しを見たときに水はねるかな、と、考えることが大切。失敗から学べることも大切。教材だけでなく、失敗をサポート支援する講師も必要。講師は教えるのではなく、支援する、これが教育。あと育成対象者と指導者がパートナーとなること、教えるー教わる関係でなく、両方が伸びていく、講師は人に教えることで伸びる、というところで、一緒に技術を獲得していきましょう、という教育が必要。要するに、技術型エンジニアを育てるには実践をしながら、教えてもらうのではなく、自ら考える、教える側はそれを支援するということが大切である。
■キーワード・キーセンテンス
「How to 系の研修、本による研修では厚い壁を乗り越えられない」 「技は盗め!、俺のやり方を覚えろ!は×、企業独自の技術・ノウハウを伝承するは○」 「ディスカッションやコミュニケーションは訓練しないとできない」
プログラム8 「パネルディスカッション:エンジニアにキャリアプランとして何を目指して欲しいか」 |
■講演者(右から) パネルリーダ: 大原 茂之(東海大学) パネルメンバ: 久米 孝(経済産業省) 村上 隆一(メイテック) 山田 大介(リコー) 坂本直史(ルネサスソリューションズ) 後藤 祥文(デンソー) 渡辺 登(沖通信システム) |
【大原】 組込み製品を作って食べてきた我が日本にとって人材の育成は日本の将来を左右してしまう大事な要素となっています。しかしながら、これまで人材の育成が日本にとって大事であるということが十分に認識されていなかった。この問題を打開して、日本の力を発揮しグローバルな世界で産業競争力を発揮するためにはどんな手を打ったらよいのか、エンジニアひとりひとりがどうやってスキルを伸ばしていったらよいのか、また、組織としてどうやって人を育てていくのか、このような人材の育成計画すなわち「キャリアプラン」を考えなければいけない。このようなことをポイントに議論をしていきたいと思います。
それでは、ポジショニングイメージを示しますので、この図に沿って、パネリストのみなさんそれぞれのポジショントークをお願いします。
パネルリストの論点に対するポジション | ||
産官学の連携が大切 | ||
暗黙知派 (実務派) |
形式知派 (制度派) |
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まずは企業内 | ||
※ この図はパネルディスカッションにために設定したポジションであり、パネリストの方々にはこのポジションに基づいて発言をしていただいています。パネリストの実際のポジションとは必ずしも一致していませんのでご注意ください。 |
※パネリストの方々にはあらかじめ以下の3つの観点でポジショントーク用のスライドを作ってもらっています。
パネリストに与えられた3つの課題 |
国策として組込みソフトウェアの人材育成に対して何を期待するのか、または行うのか |
企業内の組込みソフトウェアの人材育成に対してなにを期待するのか、または何を行うのか |
エンジニアのキャリアプランについてどう考えるのか |
■パネリストのポジショントーク
【大原】 私は産官学の学の立場ということになります。学の立場とはいっても30年ほど前から組込みの仕事に携わっております。大学で教鞭を執っていますが日本情報処理技術者開発協会においてマイコン技術者のスキルを作ったり、日本システム開発協会で参画されている企業の方々に技術を提供したりしております。
■国策に関して
国策に関しては、産業構造が大きく変化しており、ただ単に物を作ればよいという時代から、知的なものを組み込むという時代に切り替わってきていると考えています。製造段階で利益を作り込むのではなく、むしろ設計段階で商品の価値を作り込むようになってきている。そういった産業界での変化が大学の教育や研究に反映されていない。大学においては、教えるのに楽な方向に流れてしまっている。すなわち自分の知っていることしか教えないということになると昔の話ばかりすることになってしまう。これでは大学が人材を供給する役割を果たせません。そういう意味で大学を改革していかなければならないが、そのような国策はあるのかということを問題提起したいと思います。
■企業内の人材育成に関して
大学を卒業した人材を組込み技術者としてのそのまま使えるとは企業のみなさんは考えていない。つまり、大学は組込み分野の人材供給基地にはなっていないと思われているのではないでしょうか。企業のみなさんの負担をできるだけ減らすために、大学ではどのような教育を行うべきかを企業側から大学へ要求するべきではないかと思います。大学の中での声は届きにくいので企業のみなさんに外圧をお願いしたいと考えています。
■エンジニアのキャリアプランに関して
大学や大学院をできるだけ活用してもらいたい。社会人が博士号を取ろうとしても仕事が忙しくてなかなか論文を書くことができない。もっと社会人が学位を取りやすいようなプラン・しくみを考えるべきではないかと思います。
【久米】 平成14年の6月から経済産業省の情報処理振興課でソフトウェアを担当しております。情報処理振興課の実績としましては平成14年の10月にITスキル標準を発表しています。
■国策に関して
一昔前は産業政策または産業振興というと補助金を付けるであるとか、もっと昔であれば関税障壁を設けるなど、伸びて欲しい特定の業種または産業に
favor を与える、あるいはそうでない業種または産業に規制を設けることによって競争力を付けさせるという政策が産業政策になっていたと思います。ところが世の中がグローバルになったことによって、物のやりとりだけでなく、サービスや人についても国境を越えて動いていくということになってきています。このような状況の中では従来型の産業政策は有効ではないと考えられます。逆に政府が補助金を付けることで、企業が本当のマーケットに目を向けず、政府からお金を得ることばかり考え、政府に対してのマーケティングを行うようになりかねない。企業が「次の予算はどこにつくのか」「その予算を取るにはどうしたらいいいのか」ということばかり考えるようになり、本当のマーケットでないところで企業がお金や労力を使ってしまう。そうなるとグローバルなマーケット以外での競争が起こってしまいます。長い目で見るとそれは企業のためにならないと思います。
それと同時に競争の舞台は世界に移っており、ソフトウェアやサービスなど目に見えないもので日本も外貨を稼がなければいけない段階に差し掛かってきたといえます。そうすると、この目に見えない価値を評価する仕組みがないと産業がきちんと伸びていかない。目に見えないものに価値を与えて客観的に評価する仕組みを作ることができるかどうかが経済界や国家の競争力を左右する。このようなしくみをどのように用意するのかを考えることが国の重要な役割ではないかと考えています。
いろいろな評価のしくみを作る、あるいは実際に評価してみる。それによって本当に優れた人が優れていると評価できるようになる。それは個人かもしれないし、企業かもしれない、さらには大学かもしれない。いい教育をしている大学はいい教育をしているんだと評価されるしくみがないと、論文を書いたら評価される、あるいは書かないと評価されないということになってしまう。それでは、産業界の役に立つ人材を育成しようというモチベーションが働くわけがない。私たちは今、大学を卒業した技術者が大学の教育の何が役に立って何が役に立たなかったのか、あるいは、どんな教育をして欲しかったかを調査しています。また、企業側から大学でどのような教育を受けた学生が製品開発に貢献したのかといったことを公表して大学同士の競争原理を促すといったことも検討したいと思っています。
■企業内の人材育成に関して
プロフェッショナルをプロフェッショナルとして評価するしくみを構築することを期待していて、これにスキル標準のようなものが使えればいいと思います。ポイントは個人のスキルや実績をスキル標準のような客観的な物差しで評価をしていくと、スキルがない人にこれまでいかに高い給料を払っていたのかということに気がつくということです。どんどん売り上げや利益が伸びている時代ならよいのですが、これから横ばいの時代になって若くてもスキルの高い人に高い給料を払おうとすると、年齢にかかわらずスキルが低い人あるいは実績が上がらない人に対して我慢をしてもらわなければいけなくなります。それを実現できるのかどうかというところがスキル標準の問題・課題になってくると思います。日本の場合は、これをドラスティックには実施はできないかもしれませんが、そのような方向になっていくという予想はあります。
■エンジニアのキャリアプランに関して
プロフェッショナルとしての研鑽を続けていくことが金銭的にも精神的にも可能であり、スキルに対して十分な対価が得られるようなキャリアプラン・キャリアパスが提供されることが重要であると考えます。組込み業界にどんどんいい人が入ってくるには、お金が儲かるか世の中から尊敬されるということがないと辛いでしょう。少なくともそのどちらかが実現されるようなキャリアパスが用意されるのが理想です。
【村上】
■国策に関して
国策に対してスライドには従来型の補助金政策のことを想定して、国が表にでるとマーケットがねじれてしまうのでむしろ黒子に徹してバックアップに回ってほしいと書きましたが、久米さんの話を聞いて安心するとともにもっと期待するところがあるのではないかと思いました。個人のキャリアを考えたときに、我々は社員に対してキャリアアップの志向性を強く打ち出しているわけですが、会社に入ってから教育したのでは遅いのではないかと思うことがあります。大学にいるときにどのような仕事に就職するのか自分がどのようになりたいのかという意識を持って勉強していくのとそうでないのとでは相当差があるのではないでしょうか。大学で行っている研修の内容を聞くとそこそこやっているようでも現場に行くとまったく分かっていないということは、そういった問題意識を持たずに単位が取れればいいのかなあという気持ちで授業を受けているのではないかと感じます。
そういった意味でも大学のインターンシップにはかなり期待しています。毎年50から60名ほどのインターンシップを受け入れていますが、できるかぎり多くの学生を受け入れて早い時期にエンジニアとはどういったものなのかを意識してもらい大学へ帰って”就職”するのか”就社”するのかを考えて欲しいと考えています。”就社”するのでは先がない、自分がプロのエンジニアとしてキャリアを身につけようと考えて就職するのであれば、おそらくその人は会社がどうなろうともエンジニアとして自立してやっていけるのではないでしょうか。インターンシップを通して産学の関係を築いていきたいですね。その際に、大学の単位のあり方や、インターンシップを受け入れるときの企業の負担の軽減などを国に考えて欲しいと思います。
■企業内の人材育成に関して
欲しい人材は強制的に作ろうと思っても作れない。必要な人材を作ろうと思ってレールを引いても、レールに乗るのは技術者自身であり技術者が自立走行できる方向に持っていかないと、レールに乗せても動かないし空回りするだけ。おそらく自立走行できる道筋を示してあげることが大切なのだと思う。キャリア志向を持たせることが重要。そのためのOJTをシステム化していきたいと考えています。教育をやっていると、教育する側、教育を与える側の論理で動きがちになるけれども、現場で活躍している技術者は現場で何が足らないのかを感じていますから、そのようなところへ優秀な技術者のノウハウをフィードバックするようなことをしていかないといけません。ただ、現場任せではいけない。現場任せではダメだから教育をしましょうということではなく、現場と教育機関との連携を考えていく必要があると思います。
■エンジニアのキャリアプランに関して
道を示すことが重要ですが、自分が道のどこにいるのかが分からない技術者が多い。小さい世界なら先輩と後輩の存在から自分のポジションが見えるのですが、果たしてそれが別の企業へ行ったときにどうなるのかが見えづらい。例えば、一つの会社に技術者を派遣させていると長くいればいるほどお客さんの評価は上がっていくのですが、逆にいうと外の世界を知らないので、自分のポジションを客観的に教えてあげないといけない。業界としてそれを示せるものがあるとよいと思います。技術の進歩は非常に早いので、「今私はこれで飯を食っていますよ」ということが明日はそうではないかもしれない。そのような場合キャリアシフトしていける準備ができているのか、目標があるのかを技術者に問いたいですね。技術の変化は非連続なので目標自体も経過する時間の中で見直してもらいたいと思います
【山田】 20年前からOA機器の開発ということで組込みに携わっています。「もっと早く・もっと楽に」をキーワードに無駄を無くし、プロセスの改善ができないかを日々考えています。
■国策に関して
組込みエンジニアと言っても各社で使っている言葉が違う。エンジニアのスキルレベルが違う。企業を超えた共通のプラットフォームを作って頂けると企業間のローテーションやエンジニアの客観的評価がわかるのではないかと思います。また、組込みエンジニアの服装などの外見だけでない、能力・スキルによる社会的な認知が行われるようになることを期待しています。
■企業内の人材育成に関して
メーカーへ就職を希望してくる学生は情報系の募集に対して、ものつくりというイメージからか機械系とか物理系の出身でも応募してきます。そのようなソフトウェア以外の専攻の学生が組込みエンジニアになっている場合が多い。そのような異なる専攻を勉強してきた人材も企業側が再教育を行っているというのが現状です。
■エンジニアのキャリアプランに関して
物を作るのも大切ですが、自分のキャリアデザインを日々考えることが大事だと考えています。我々の会社では32歳のときに10年後の自分を考えるようにしていますが、やや形骸化していて自分のキャリアを考えるだけで終わっている場合が多い。若い時期からキャリアデザインを考える必要があると思います。また、子供が組込みエンジニアになりたいという夢や価値観をもてる時代になって欲しいですね。
【坂本】 今日は一(いち)エンジニアという立場で話をしたいと思います。私自身は組込みソフトの開発およびマイコンの応用技術に従事しています。村上さんから、大学ではどんなエンジニアになりたいかを考えて勉強した方がよいというご意見がありましたが、私はどちらかというと大学では好きなことをやった方がいいと思います。大学で非常勤講師としてソフトウェア工学を教えていますが、一方で会社ではアセンブラのコードを書いたりして泥臭い仕事もやっています。ただ、常に情報工学やソフトウェアの理論のことは考えていて、それらは非常に大切であると考え、できるだけ職場でも基本的な原理というのは教えるように心がけています。
■国策に関して
組込みエンジニアという職種を認知し地位向上と教育を柱とした施策や投資を期待したいと思います。週刊誌などの業種ランキングでは製造業は給料が安いですね。もしも、我々の給料が50%アップしたら、果たして日本の産業競争力はあるのかということが疑問です。もしも、給料を上げたことによって日本の産業競争力がなくなるのなら、どれだけ我々が自己犠牲のもとに日本のために働いているかということの証明になると思います。組込みソフトが大切だと認知されているのならば、ここへ是非投資して欲しいと思います。
■企業内の人材育成に関して
キャリアパスと連携した人材の育成が重要だと考えています。いくらものつくりが好きだからと言っても、スキルに見合った賃金は欲しいです。企業は自分の会社に対する投資という意味で、教育・人材育成に是非投資して欲しいと思います。ただし、どれだけの投資ができるかは企業の規模や体力によって差があると思うので、1企業でできないことを国や大学やSESSAMEのようなコミュニティが連携してサポートしてあげて欲しいと思います。
■エンジニアのキャリアプランに関して
正当な評価のために企業の能力評価の基準と個人のスキルを明確にすることが大切で、どこの技術が優れていて、どこが足りないのかを認識し、何を勉強すればよいのかを判断するための共通のベースが必要だと思います。
【後藤】 1982年に入社し、ずっとカーエレクトロニクス分野でソフトウェアをやってきました。最初はエンジン制御に従事し、1988年からアメリカへ行って車両評価の仕事を3年間、日本に戻って今はボディ制御という、車の利便、安全、保安、セキュリティなどの価値を生み出す部分に携わっています。現在120名ほどの技術スタッフと一緒に仕事をしています。約半数が社員で残りが社外スタッフです。これらのスタッフでソフトウェア製品の開発と基本ソフトとマイコンの企画開発を行っています。
■国策に関して
企業は厳しい環境の中で人材の育成に対して努力しますが、大学を卒業して入社してきた人材の対人影響力がかなり乏しく、ものつくりになかなか結びつかないという問題があります。また、税制についてまだ完成していない組込みソフトにまで無形固定資産として2001年から税金が取られることになりました。これには非常に足を引っ張られていて、これでは本当に組込みソフトを日本に残せるのか、海外で作った方がいいのではないかと考えてしまう。また、知的財産の保護ということで、健全かつ安全なソフトウェアが流通するしくみをキチッと作って欲しいと思います。それを守らない者にはペナルティを課し、まじめな会社が生き残れるような国策が必要だと思います。
■企業内の人材育成に関して
個人の成長と技術者が作ったものが社会にどのように貢献しているのかが大事だと考えます。仕様が曖昧で、お客さんから間違った仕様を要求されたときに、それが間違っているということを示せないと作った組込みソフトを使うお客さんを傷つけてしまうかもしれない。リコールになるかもしれない。このような判断ができる意志を持ったエンジニアが必要であり、個人成長と利益と社会貢献といったバランスのとれた技術者の育成を心がけています。
■エンジニアのキャリアプランに関して
今の若者は知識は豊富ですが対人影響力が問題があると思います。10年目くらいの技術者がこころの病に陥ることが多い。若い時期に対人影響の勉強をしてくればいいのだけれど、ずっと技術だけで育ってくるとものつくりのリーダーをやっていこうというときにくじけてしまうというケースがあります。これでは組込みエンジニアとしての将来に不安が残る。このような問題が起こらないようなキャリアプランを企業内で考えています。スキル標準は賛成。ソフトウェアエンジニアとしての共通の基盤とそれぞれの企業のドメイン技術の両方の点検をさせていかなければいけないと考えます。我々は、自分の作っているものがどのような評価を持つのかを分からせるために、車両評価の仕事を新人からやらせていて、キャリアアップの目標を約200項目についてチェックしスキルアップ表として毎年診断しています。
【渡辺】 入社してから通信系のファームウェアを開発しています。主に電話交換機のソフトウェア(デジタル交換機、ISDNなど)の開発に携わってきました。その後、交換機開発需要の低下とともに別のドメインにキャリアシフトしています。交換機系から携帯電話機へシフトし、internetやモバイルに関するスキルを身につけました。最近ではMPEG関係の開発に従事しています。組込みソフトウェア開発としては、メーカサイドの組込みソフト開発リーダーと、メーカからの受託開発の両方を経験しています。SESSAMEではスキル標準を検討していて、経済産業省の委員としても作業しています。組込みソフトのスキル標準がキチンと離陸して、将来に渡っても有効に利用されるように持っていきたいと思っています。
■国策に関して
大企業の様に人材育成に対し、コストや工数をあまりかけられない中小企業をサポートしてほしいですね。
■企業内の人材育成に関して
エンジニアにキャリアプランを丸投げするのではなく、キチンと道筋を立てキャリアアップをサポートして欲しいし、また、企業外での教育受講やコミュニティへの参加をどんどんやれ!と言って欲しいと思います。自分自身がSESSAMEに参加してから、いろいろと世界が広がったことを実感しています。
■エンジニアのキャリアプランに関して
スキル標準をうまく使って、「個の確立」を行い、自立したエンジニアをめざして欲しいと思う。
■会場からの質問
【大原】 パネリストのみなさんありがとうございました。それでは、会場の参加者のみなさんからご質問をいただきたいと思います。
【会場の参加者】 久米さんの話の中で、組込み技術者が社会から尊敬を得る必要があるという話がありましたが、情報処理試験の受験者数が減っているという新聞記事を見ました。学生から見ると情報処理試験は魅力がないと思っているのではないでしょうか。他の資格のように資格がないと仕事が出来ないということではないわけで、この辺をなんとかすることによって社会から尊敬を得る必要があるのではないかと思います。また、我々が作っている組込みソフトウェアは人の命に関わっている。このような安全性や信頼性が求められるソフトウェアを無資格の技術者が作ってよいのかという問題があると思います。こちらの問題を試験で資格を持つということで解決できないのでしょうか。また、エンベデッドエンジニアの試験が年一回しかないのも気になります。もっと試験の回数を増やすなどの方策はないのでしょうか。中国では毎月PC上で試験ができると聞いています。なぜ、日本ではできないのでしょう。
【久米】 情報処理技術者試験の受験者が減ったのは事実ですが、高度情報処理技術者試験の方はそれほど減っていないと思います。初級システムアドミニストレータなど対象の人数が多く技術者というよりは利用者となるような人が受ける資格の増減が激しいというところはあります。このこと自体はITやエンベデッドのエンジニアに対する評価とはあまり関係ないと考えています。スキル標準を作っていったときに試験との関係をどうするのかというところが大きなテーマだと考えていまして、そういった意味でいい問題提起をいただいたと思います。
エンベデッドエンジニアの試験でペーパーでスキルを計る部分と、実際に仕事ができるかどうかということについてギャップがある場合があります。スキル標準を考えたときに、スキルを客観的に評価できるのかどうかが課題となっていました。一番簡単なのはペーパーテストで、テストの中に論述問題を入れればある程度のことは分かると思います。これまでは経済産業省が試験を提供し、グレードに沿って試験に次々に受かることがキャリアパスとなると定義してきました。
それ自身が見当違いだったとは思いませんが、試験の区分と実際のキャリアの推移がそう簡単にきれいに一致しない、あるいは世の中が変わっていくたびに試験の区分を変えていかなければならないという問題があります。このことから試験で想定した人物像よりも、もう少しブレークダウンしたスキルでキャリアパスを示せるようにする必要があるのではないかというのがスキル標準をやってきた背景です。もうひとつは試験で計れるスキルには限界があるという中で、あるタスクができるかできないかということを判断するための総合的な物差しというものを作る必要があるのではないかということです。それは試験だけではなく本当の意味でのスキル標準が必要ではないかということです。試験とスキル標準の関係はこのように理解していただきたいと思います。
それから CBT(Computer-Based Training) の話は今でも経済産業省の中で検討しているのですが、一言でいうとものすごくコストがかかります。CBTでやろうとすると、当然試験の回数を増やさなければ意味がないのであって、受けたいときにはいつでも、あるいは一週間に一回といった頻度で受験できるようにしなければいけない。そうすると問題をたくさん作らないといけない。試験のコストは問題を作る部分にコストがかかっています。逆に言えば問題の質で試験のクオリティが支えられているということになるので、組込みのことをよく分かっていない方に試験問題を作ってもらってもいい問題ができないということになります。そうすると受験者の方に革新的な利便性を感じてもらうには相当なコストを負担してもらわなければならないか、試験問題の蓄積をやっていかなければいけない。まずは今の情報処理試験制度の中でコストを上げないで
CBTの利便性を活かす方法を今検討しています。
【大原】 キャリアプランを考えていく上で情報処理試験がひとつの尺度になる。それからキャリアプランをわかりやすくするという意味では資格も必要になるのではないかという意見になろうかと思います。それについては、久米さんがお話くださったように経済産業省の中でもいろいろ検討しているところだということでした。他にご質問はありませんか。
【SESSAME主催者 飯塚】 国なり社会なりが持っている人材育成のフレームワークについて。日本の場合は大学を卒業した人材を企業がまったく期待していない。企業に入ってから鍛え直すということで、大学では一般的な能力だけを教えておいてもらって専門性はもういいということになっているわけですが、例えばアメリカでは職業訓練学校のようなところがたくさんありまして、即戦力とは言わないまでもそこそこのHow to についてスキルを持っている人を供給しています。そのこと自体を企業・社会が要求しているわけです。今このことを議論しているときに日本においてもアカデミズムとは違った形のもっと即戦力になるような知識なり専門性を持った人たちを育て上げていくようなしかけを作りたいと感じるわけです。このときに、私たちは国立大学ですから文部科学省の傘下にいるわけで、そこでも社会人教育のことがいろいろ議論されるのですが、どうしても話がアカデミズムの方に寄っていってしまいます。アカデミズムではない職業として専門性を持っている人を育て上げるしかけをたとえば、経済産業省が持っている教育機関を今までとは違った価値観を持った教育機関として活用していくことはできないでしょうか。
【大原】 SESSAMEに参加している大学関係者は何とか現状を打開したいと思っていて、これを打開するには経済産業省からの力もお借りしたいと思っているわけです。ということで久米さんと後藤さんに答えて頂きたいと思います。
【久米】 現実的なところからお答えるすることになってしまいますが、そのような今までとは違った価値観の組織・教育機関があった場合に、そこを卒業した人は学位はいるのかいらないのかという議論があります。大学卒という肩書きが欲しいという組織にすると、それは文部科学省の傘下の大学ということになります。おそらく、既存の大学ではどうしていけないのかというところをよく分析しないと新しい教育機関を作っても同じことになってしまうと思います。
経済産業省の傘下には中小企業大学校のようなものがあって企業の人材を育成しています。このような組織は実際にあるわけです。経済産業省情報処理振興課の過去の政策を見ていると情報大学校構想というのを議論していた時期があって、専門学校・各種学校の中で専門性に対して意識の高い方々に大学校という名前を付けて支援していこうということを検討していたことがありました。その特典は何かというと、経済産業省がカリキュラムを決めてそれに従った教育をしてくれたところには情報処理技術者試験の午前の試験を免除するという施策をやっていました。そのときに情報処理技術者試験の免除というある種のメリットだけで標準カリキュラムというのをある種強制したのですが、結局カリキュラムを示すだけでは実践的な教育につながっていかない、足らないもう少し工夫をしたいという意見が出てきて一度その制度はなくなったという経緯があります。この施策は名前は大学校構想でしたが、事実上いろいろな各種学校の方々に手伝ってもらってそのようなシステムを作ったということなので大学をゼロから作るということではなかったわけです。
ITの人材というところでそういうしかけがいるのかどうかという点ですが、そう思う人が産業界の中でどれだけいるのかということに行き着くのだと思います。学位はなくても専門教育機関を作るのだということになったときに、そこからの卒業生を企業は採用してくれるのかという点が気になります。作ったけれども需要がなかったというのではまずいわけです。マーケティングを相当やらないといけないと思います。
【後藤】 企業も目先のことをやりすぎていると思います。私たちは2015年というビジョンで動こうとしています。もっと企業側が人材に対するニーズを大学側にはっきり出す必要があると思います。産官学が連携して国策の方も重要だと思いますが、日本の技術者が中国、インドや韓国とどのような立場でやっていくのかということが明確でない。企業側もそのことをしっかり考えて、学校と連携して技術を生み出すということを今から始めないといけないと私は感じています。目先の利益やコストなどは確かに厳しいのですが、中長期で産学との連携はしっかり話し合っていきたいと思います。
■最後に
【大原】 キャリアプランをデザインしていくためには、まだまだ環境が不足しているということだと思うんです。やはりキャリアプランをデザインするためには組込み技術者をどうやって育てていくのか、自分の会社の中で、あるいは広く企業間を見渡したときに自分はどのようになりたいのかそのようなことをイメージできる環境にまだなっていない。キャリアプランには流動派というのもあると思いますが、今自分が持っている専門知識を捨てて他の企業に移ったときに、必要な新しい専門知識だけを獲得すればいいように、基盤になるスキルが何かというところも明確になっていない。今日はキャリアプランをデザインするという話ではありましたが、それは実はなかなか難しいというところを確認してもらいたいとも思います。
このようなことを意識して活動しているのが SESSAME であり、私も在籍しているわけですが、他にもいくつかの動き、コミュニティがあります。フロアの方から質問票が上がっていまして、「とても貴重な話をどうもありがとうございました。政府も動き出して組込み元年に相応しい年の始まりだと思いますが、SESSAMEを含め多くのコミュニティが存在しています。こういったコミュニティは現在バラバラのベクトルとなってしまっていると思いますが、これらのコミュニティが一つになるような動きがあるのでしょうか」という質問が上がっています。この質問を久米さんに振ってしまうと、また国の政策を問うことになってしまいます。そこで、この辺の動きに詳しいNEC
の門田さんがフロアの方におられますのでこの質問に対して門田さんにお答え頂きたいと思います。
【門田】 SESSAME TOPPERSに限らず、問題意識を持った方々が任意団体をお作りになっていて一つのベクトルにはなっていないという現状があると思います。産業的な工学的なベクトルを集結して、みなさんが議論してその成果が正当に評価されるような場を作ったらどうでしょうか。アカデミックな方へ偏ってしまうと学会になってしまうので、それに近い工学会のようなものを提起して我々が作ったらどうか、それならば省庁の壁があろうとなかろうと、例えばアジアの仲間に認められていくという構想があれば、自然に流れが変わるんではないでしょうか。幸い、このようなエンベデッドなことに対して日本のみなさんが意識を持っているのと同じように中国、韓国、タイ、シンガポールもとても関心を持っています。むしろ、日本の実情よりも彼らの方が進んでいるという現状があるわけです。いわゆるエンベデッドエンジニアというと、コストの優先のため”安い”、”つらい”という追い込みがなされていて、社会的な地位が低いなどという誤った見方が一部広がってしまっているかと思います。日本はいいターゲットだと思っている国もたくさんあると思います。しかし、そうではなく、我々が行っているこういうしくみを共有していくと組込み技術分野が高まっていく動きができるのではないかと考えています。実際に私たちはそのような活動を行っていまして、経済産業省の後押しもありますので必ず2、3年のうちに実を結ぶと考えています。
【大原】 経済産業省の後押しもあるということですから、今年は組込み元年ということで我々の力を結集して日本の国力を回復するというところへ向かっていきたいと思います。みなさんどうもありがとうございました。
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